医療法人M&AのDD前に売り手が準備する資料一覧|財務・診療・人事・契約の整理

医療法人やクリニックのM&Aを検討する際、売り手が最初に取り組むべきことは、膨大な資料を一度に提出することではありません。財務・診療・人員・契約・法人運営の情報を分け、数字の根拠と開示できる範囲を整理することです。これにより、買い手からの質問に対応しやすくなり、交渉途中の認識違いも減らしやすくなります。

目次

なぜデューデリジェンス前の資料整理が重要なのか

デューデリジェンス(DD)は、買い手が対象事業の実態やリスクを確かめるための調査です。ただし、売り手の手元にある決算書、レセプト集計、給与台帳、設備の一覧、賃貸借契約が互いに一致しているとは限りません。数字が違う場合には、集計期間や会計処理の違いなのか、修正が必要なのかを説明できることが重要です。

資料不足そのものよりも、売り手が把握していない問題が後から判明することが、価格交渉や承継日程を難しくする場合があります。早めに「用意できる資料」「確認中の資料」「存在しない資料」を分けておきます。

売り手が整理したい6つの資料群

1.財務・資金繰り

直近の決算書、月次試算表、借入金の返済予定、リース契約、未収金・未払金、役員との金銭貸借などを確認します。年度をまたぐ一時費用や、事業に関係しない費用がある場合も、その性質と根拠を整理します。修正後の利益を示す際には、実績値と調整の仮定を混同しないことが大切です。

2.患者数・診療報酬・診療構成

月別の延べ来院数、実患者数、初診・再診、レセプト件数、保険・自費・その他の売上を同じ対象期間で整理します。患者単価を示す場合は、分子が何の売上で、分母が来院患者日なのかレセプト枚数なのかを明記します。季節性、休診日、診療時間変更による影響も別に記録します。

医師別や診療科別の情報は有用ですが、必要性が確かになる前に患者個人の診療情報を渡す必要はありません。まずは匿名化・集計した資料で検討します。

3.医師・職員体制

職種別人数、常勤・非常勤の区分、勤務曜日、管理職の役割、採用計画、退職予定の有無を整理します。買い手が知りたいのは現在の人員数だけでなく、理事長や院長が退任した後も診療を続けられるかという点です。引継ぎを担う人、採用が必要なポジション、業務の属人化を見える化します。

氏名、個別給与、評価、病歴などの個人情報は取り扱いを分け、調査目的に必要な範囲だけを適切な管理下で開示します。

4.不動産・設備・システム

建物の所有・賃借関係、賃貸借契約、更新時期、原状回復、医療機器の所有・リース、保守契約を確認します。電子カルテ、予約、会計、決済、ネットワークについては、契約先と運用担当、データ移行の要否を整理します。設備が帳簿に載っていても、稼働状況や更新費用は別の情報です。

5.法人運営・行政上の手続

定款・寄附行為、役員の構成、社員や評議員に関する資料、過去の重要な意思決定記録、届出・許認可関係の書類を確認します。医療法人の類型や承継方式によって必要な決議・届出・認可等は異なるため、一般企業の株式譲渡と同じ手順を当然視しないことが重要です。具体的な適用要件は、都道府県等の所管行政庁や弁護士・税理士などと個別に照合します。

6.取引先・契約・係争などのリスク

主要な委託契約、医療廃棄物、システム、保守、借入・保証、不動産の契約条件を一覧にします。契約上、承継前に承諾が必要になる事項がないか、判断できないものは確認待ちとして残します。トラブルや是正対応がある場合も、事実・対応済み・未対応を区別して整理します。

最初の30日で行う資料準備の進め方

  1. 第1週:資料責任者を決め、保存場所を確認する。法人、財務、診療、労務、契約の5領域で一覧を作る。
  2. 第2週:月次売上・患者数・人員数の定義をそろえ、決算書と日常集計との主な差異を洗い出す。
  3. 第3週:不動産・機器・借入・リースの契約期限、医師の引継ぎと採用の課題を整理する。
  4. 第4週:開示可能範囲を分類し、未解決論点、担当者、次に確認する日を一覧にする。

この日程は説明用の進め方であり、必ず30日で完了するという意味ではありません。資料の量、承継方式、関係者数に応じて調整してください。

資料を開示するときの注意点

非公開の資料は、候補先の検討状況や秘密保持契約の有無に応じて段階的に開示します。初期は事業概要や集計データを中心にし、個人情報・患者情報・契約上の機密については必要性、アクセス権限、受渡方法、閲覧履歴を検討します。原本を上書きせず、資料の作成日と対象期間を残しておくと後日の照合に役立ちます。

売り手向け実務チェックリスト

  • 決算書・試算表・借入・リースを対象期間別に整理した
  • 保険・自費・患者数・レセプト数の定義と期間をそろえた
  • 経営者退任後の医師・スタッフ体制を説明できる
  • 不動産・設備・システムの契約と更新予定を一覧にした
  • 法人の意思決定や行政手続について専門家への確認点を把握した
  • 未確認資料と秘密情報の開示範囲を区別した

よくある質問

Q.売却を決める前から準備してもよいですか?

A.はい。承継するかどうかが未定でも、経営資料を整理することは経営改善や親族・院内承継の検討にも役立ちます。ただし外部への開示は別に判断します。

Q.買い手候補に患者名やカルテをすぐ渡す必要がありますか?

A.通常、最初から個別患者の診療情報を共有する前提にはしません。集計情報で検討できる事項を先に整理し、個別情報が必要かどうかは法令と目的を踏まえて慎重に確認します。

Q.過去の数字と現在の実態が大きく違う場合は?

A.相違を隠して過去の実績だけを示すのではなく、対象期間、診療日数、診療体制、費用構造の違いを整理します。原因を確定できない部分は推測で埋めず、追加確認事項とします。

売り手の準備は、交渉を急ぐためではなく選択肢を守るため

資料整理の目的は、買い手の質問に答えることだけではありません。現状の経営と承継後の課題を自ら把握し、売却・継続・院内承継の選択肢を比較するための基盤です。Bridge Medical Consultingでは、医療機関の経営分析から事業承継・M&A、PMIまで支援しています。事業内容をご覧いただき、承継準備に関するご相談はお問い合わせフォームからお問い合わせください。

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