インフルエンザなどの予防接種が増える時期は、クリニックの受付件数や売上が伸びていても、通常診療の需要が増えたとは限りません。判断を誤らないためには、「接種のみ」「通常診療のみ」「接種と通常診療の両方」を分け、患者数と売上の定義をそろえて比較することが重要です。
予防接種シーズンに経営数字が読みづらくなる理由
予防接種では、通常診療とは異なる予約枠や会計方法が使われることがあります。また、同じ患者が接種と診察を同日に受ける場合もあります。このときカルテ件数、受付記録数、来院患者数を同じものとして集計すると、診療量を二重に数えるおそれがあります。
患者単価も同様です。ワクチン接種の収入を通常診療の収入と合算すると、「通常診療の診療内容が変化したから単価が上がった」と誤解する可能性があります。実際には、接種の構成比が変わっただけかもしれません。
まず「3つの患者区分」を決める
日々の受付データを、次の3区分に分けて確認します。
- 通常診療のみ:その日は通常診療を受け、対象ワクチンの接種記録がない患者。
- 予防接種のみ:対象ワクチンの接種はあるが、集計対象となる通常診療を伴わない患者。
- 接種+通常診療:同じ日に両方の記録がある患者。
区分は医療機関のデータ構造に合わせて設計します。予防接種の記録と診療報酬の点数が同じカルテに載る場合と、別のカルテに分かれる場合では抽出方法が異なるためです。保険算定の可否や個々の診療の適切性は、別途実際の診療内容とルールに照らして判断してください。
同日複数カルテによる二重計上を防ぐ
延べ来院数を「同一患者・同一日を1人日」と定義するなら、患者識別番号と受診日の組み合わせを一意に数えます。一方、カルテ件数はその日に作成された記録の件数であり、両者は一致しないことがあります。期間中の実患者数は、さらに患者識別番号で重複を除いた人数です。
例えば仮想例として、通常診療のみ90人日、接種のみ30人日、両方20人日なら、全体の延べ来院数は140人日です。通常診療に関わる患者日110人日と接種患者日50人日を単純に足すと160人日になり、両方を受けた20人日が重複します。
経営分析を正確にする6つの手順
1.比較期間と営業日をそろえる
月次・週次の比較では、休診日、祝日、臨時休診、接種専用枠の有無を記録します。「1日平均」を示すときは、分母に含めた営業日の範囲を明記します。診療日数が異なる月の総患者数だけで需要を判断しないようにします。
2.カルテと患者日を別々に集計する
抽出したカルテ行の数と、同一患者・同一日で集計した来院患者日数、期間内の実患者数を区別します。テストカルテ、取り消し、同日重複や点数ゼロの記録は、理由を確認してから対象に含めるか判断します。
3.接種の有無と通常診療の有無を判定する
ワクチン名や受付区分だけに依存せず、処置・会計記録も確認し、上記3区分へ分類します。「接種+通常診療」は独立した区分として残し、通常診療の集計にも接種の集計にも関係することを明確にします。
4.売上を発生源ごとに整理する
保険診療の算定額、自費の接種代金、自治体等との契約に基づく後日請求額を混同しないようにします。患者窓口負担だけを抽出した場合は、それを医療機関の総収入と呼ばないことが重要です。未請求・未入金・未収の金額は、会計上の処理と管理目的に応じて区分します。
5.患者単価を目的別に定義する
全売上を全来院患者日数で割った参考単価と、通常診療の収入を通常診療の患者日数で割った指標は、別の意味を持ちます。分子と分母の対象範囲を一致させ、どの定義を使ったか毎回明記します。ワクチン単独の単価も、実際の接種件数や会計形態に合わせて別に集計します。
6.変化を「診療需要」と「接種需要」に分けて説明する
予防接種が増えたこと自体は重要な実績です。ただし、通常診療の受診患者数や診療報酬単価の変化を説明する際には、接種のみの患者が占める割合を別に示します。数字の変化と原因の推定を分け、単純な前月比だけから集患施策の効果を断定しないようにします。
週次レポートの実務チェックリスト
- 営業日数と休診日の条件が比較期間でそろっている
- カルテ件数、延べ患者日、実患者数を区別している
- 通常診療のみ・接種のみ・両方の3区分で集計している
- 保険、自費、自治体等への請求を二重計上せず整理している
- 各患者単価の分子・分母と集計対象期間を記載している
- 抽出漏れ、点数ゼロ、取消、同日複数記録を確認している
- 数字の変化と、その要因についての仮説を区別している
よくある質問
Q.予防接種だけの患者も延べ来院数に入れるべきですか?
A.院内の総来院者を把握する指標には含められます。ただし、通常診療の需要を評価したい場合は接種のみの患者日を分け、何を含めた人数か明記してください。
Q.診察と予防接種を同日に受けた患者は2人と数えますか?
A.「同一患者・同一日を1人日」とする延べ来院数なら1人日です。通常診療と接種の両方に関わるため、サービス別の集計では重複する点を明示します。
Q.ワクチンの売上が増えたら患者単価改善と考えられますか?
A.全体の参考単価が上がることはありますが、通常診療の患者単価が改善したとは限りません。どの区分の売上と患者数が変化したかを確認して判断します。
数字の定義をそろえることが、次の改善判断につながる
予防接種シーズンの経営分析では、数字を細かく分けること自体が目的ではありません。通常診療の需要、接種の需要、収益構成を誤解なく把握し、適切なスタッフ配置や患者案内、予約枠の検討につなげるための準備です。
Bridge Medical Consultingでは、医療機関の経営数値の可視化、受付運用の改善、PMIに伴う業務整理を支援しています。事業内容をご覧いただき、経営分析や運用改善のご相談はお問い合わせフォームからお問い合わせください。
